中近世ヨーロッパの色彩
色を使う文化の広まり
壁画や建築に絵の具を使う習慣は、紀元前のエジプト、地中海沿岸のギリシャ各地、ギリシャ文化を吸収した古代ローマにおいても見られました。
エジプト
古墳や墓の壁画や装飾に多種の顔料が用いられていた
ポンペイ
火山の噴火で埋没したが、壁画や建築には当時の鮮やかな色彩が残されている
顔料は水や油に溶けない着色用粉末の総称、染料は水や油に溶ける着色用粉末の総称です。
色への価値観形成
古代ローマでは染色された衣服を着るようになり、顔料や染料の希少性が認識され始めました。
貝紫
フェニキア産の貝からとれる紫色の染料であり、原料の採取が困難なため、非常に高価だった
植物による青
その後ローマ帝国の文化を征服したゴート族などの人々は、大青などの身近にある植物で青色染めを行っていました。
大青
藍色の色素を含むアブラナ科の植物。ウォードとも呼ばれる
宗教の隆盛と色彩
ギリシャ・ローマの文化が衰退した頃は暗黒時代と考えられることもありましたが、12世紀頃からの大学制度や、修道院・教会の発展などが色彩文化の発展につながりました。
テオフィラス
12世紀の司祭。著書では油絵の具の製造方法について述べている
キリスト教と青の色彩
12世紀以降、キリスト教の絵画において、聖母マリアの衣服が青色で描かれるようになりました。
これには、貿易の増加に伴って、青の色材が豊富に手に入るようになったことも関係しています。
インディゴ
染色力が強く、インドから輸入されていた
ウルトラマリン
発色が美しく、アジアから輸入されていた
ルネサンスと青の色彩
ルネサンス時代には、ウルトラマリンの青が好まれました。
レオナルド・ダ・ヴィンチなどの芸術家が、テンペラ画、フレスコ画、油彩などの技法とともに、絵画の着色に用いていました。後に、ヨハネス・フェルメールもウルトラマリンを使っています。
アズライト
多くの画家が、高価なウルトラマリンの代わりに用いていた
ウルトラマリンの人気もあり、かつては入れ墨などに用いられていた青色が、マリアやキリストの絵画に用いられる聖なる色としての地位を確立していきました。
新たな赤の色彩
ルネサンス・大航海時代には、コチニールカイガラムシを原料とする赤色が流入しました。
この赤色は、茜や紅花などの植物由来の赤色とは異なる新しい赤として好まれ、高位の聖職者の服などに使用されました。
コチニールカイガラムシ
メキシコ地方のサボテンに寄生する虫。鮮やかで退色しにくい赤色の原料となる
光を意識した絵画技法
バロック絵画では、明暗の表現を取り入れた画法が生まれ、光源に対する意識が色彩表現と結びつくことになりました。
キアロスクーロ
カラヴァッジョやラ・トゥールらによる、明暗や濃淡の差異によって奥行きや立体感を写実的に表現する画法
合成顔料の開発
ルネサンス期以降は錬金術的実験技術の発達もあり、錬金術師によって合成顔料が開発されるようになりました。
プルシアンブルー
ドイツの錬金術師であるヨハン・ディッペルやヨハン・ディースバッハによって開発された合成顔料
ベロ藍
日本に輸入されたプルシアンブルー。葛飾北斎の浮世絵などにも用いられた