錯視
同じ色や大きさのものでも、周囲の色や配置によって、不思議な見え方や感じ方になることがあります。
錯視とは
目に入るものの色は、客観的な数値として表すことができます。しかし、その数値と、人間の感じ方はまた別なものです。
- 視対象の物理的性質:物差しで測った長さや大きさ、色を測る機器が示す色の数値など
- 視対象の心理的性質:感覚的な印象としての長さや大きさ、感じられる明るさや色み
色の数値や大きさといった物理的性質は同じなのに、見た目(心理的性質)が際立ってずれることがあります。これが錯視という現象です。
錯視は視覚の誤作動ではなく、周囲との関係から見た目を組み立てるしくみが表に出たものです。そのため、どんな条件でずれが生じるのかを知ることは、見やすさや表現を考える手がかりにもなります。
格子で発生する錯視
規則的な格子模様は、そこに描かれていないはずの影や明るさを見せることがあります。
ハーマングリッド
次の図を眺めると、白い十字路の交差点部分に、ぼんやりとした黒い影が観察できます。
この現象をハーマングリッド(ハーマン格子)といいます。
白い直線による十字路に影が見える
ハーマングリッドは、縁辺対比 に関連する現象と考えられています。
白い線には幅があるため、線の縁と線の中央付近とでは、縁辺対比の強さが変わります。
- 黒と接している縁の部分では、縁辺対比が起こり、より明るく見える
- 白い線の中央部分は、黒と接している縁から少し距離があるため、縁辺対比が弱くなる
その結果、周囲ほど明るさが持ち上がらない中央部分が、影として見えると解釈されています。
ただし、歪んだ線を組み合わせた図形では、この錯視は生じません。そのため、縁辺対比だけでは説明しきれない別のしくみも関与しているのではないかと考えられています。
エーレンシュタイン効果
格子をつくる線そのものを細く描き、線が交わる十字路の部分を丸く抜いてみます。すると、抜けた部分の明るさが変わって見えます。
- 白背景に黒い線を引いた図:抜けた部分が周囲の白よりも明るく見える
- 黒背景に白い線を引いた図:抜けた部分が周囲の黒よりも暗く見える
この現象をエーレンシュタイン効果といいます。
穴空き十字路が明るく見える
穴空き十字路が暗く見える
どちらの図も、十字路のうち1箇所だけは、抜けた部分を円で囲んであります。その部分だけは、周囲より明るいとも暗いとも感じられません。
抜けた部分に円を描き足すと、この錯視は消失するのです。
ネオンカラー効果
エーレンシュタイン図形の抜けていた十字路を、色の線でつないでみます。すると、その色が線からにじみ出て、十字路がほんのり色づいて見えます。これはネオンカラー効果と呼ばれる錯視です。
十字路で色が滲んで見える
色の境界で発生する錯視
縁辺対比が関わる境界の効果は、格子のような込み入った図形でなくても現れます。
マッハバンド
明るさが変わらない面と、明るさが滑らかに変化している面とが接しているとき、その境界の部分に帯が生じます。
- 明るい面との間には明るい帯が見える
- 暗い面との間には暗い帯が見える
この帯をマッハバンドといいます。
マッハバンドは、網膜で生じる側抑制のはたらきによる、縁辺対比の一種だと説明できます。
マッハバンドが見える2箇所の位置は、明るさが一定の面と変化する面が接する、明と暗の境界になっています。側抑制による境界の強調により、明るい領域の境界はほかよりも明るく見え、暗い領域の境界はほかよりも暗く見えることから、帯として際立って見えます。
側抑制
明るさや色相が異なる色どうしが接する境界線を見たとき、眼の中の神経節細胞は、輪郭線の存在をより強調するように、信号を強めて脳に伝えるはたらきをもつ
錯視から学ぶ見やすさ
錯視は、見え方が崩れる条件を具体的に示してくれます。
形や文字をはっきり見せるためにはどうするべきなのか、錯視から学ぶことができます。
リープマン効果
異なる有彩色が隣接し、その明度差がほとんどないとき、色と色の境界線が曖昧になります。境界がちらついて見えたり、地と図 の関係が不安定になったりします。
このような現象をリープマン効果といいます。
ちらついて見える
図の輪郭が不安定に見える
リープマン効果は、明度差がない刺激では、形の認識が困難になることを示しています。
標識などで文字や形がよく見えるようにするには、色相差や彩度差よりも、明度差が重要だといえます。
錯視を利用した表現
錯視がもつ、そこにないものを見せるはたらきが、表現に利用できることもあります。
透明視
透明視は、重なりあった図形の一部が透明に感じられる現象です。図形をわずかにずらすだけで、この透明感は失われます。
重なり部分に透明感がある
ずらすと透明感は消える
透明視は、有彩色どうしでも無彩色どうしでも起こります。
重なり部分に透明感がある
ずらすと透明感は消える
私たちの脳は、目に入った情報をそのまま受け取るのではなく、できるだけ単純で規則的な形に解釈しようとする性質があります。その結果として起こる錯視が透明視です。
たとえば、灰色の正方形が黒い円の一部に重なっている図に対して、次の2通りの解釈が考えられます。
- 円が灰色の部分で欠けている
- 円の上に半透明の灰色の板が乗っている
私たちの脳は、円という単純な図形を保つことができる、後者の解釈を採用しやすいのです。
その他の錯視
図を見た瞬間にはわからず、見続けることでその後の見え方を変えてしまう錯視もあります。
マッカロー効果
マッカロー効果の観察は、強い眼精疲労・軽い頭痛・めまいを引き起こすことがあり、長時間の観察では残像が数ヶ月単位で消えなくなるケースも報告されています。
ここで掲載している図は覚えるだけに留め、実際に体験することは避けてください。
次のような手順で発生するマッカロー効果は、対象の方向情報と色情報の組み合わせを処理する仕組みが、視覚系に存在することを示唆しています。
- 緑と黒の縦縞の図と、赤と黒の横縞の図を、交互に
10秒間ずつ、10回ほど見続ける - その後、白黒の縦縞と横縞が半分ずつ並んだ図に目を移す
すると、白い縞がうっすらと色づいて見えるようになります。
縦縞の部分は緑の心理補色 である赤を、横縞の部分は赤の心理補色である緑を帯びます。
交互に見る
交互に見る
この図に目を移す
すると、このように見える…
白黒の図の向きを変えても、縞模様の向きと色は対応して見えます。